商品説明
名刺の代わりに薄い本。
僕は個人的に、単行本より文庫本を愛でるタイプの人間でありまして、若い頃は、ジーンズのヒップポケットにヘッセの文庫本を、あのティファニーブルーのカバーを剥ぎ取った裸の状態で突っ込んで、北の丸公園に出向き、ベンチに座り、昼間っから缶ビールなどくぴくぴしつつ、引っ張り出したるそれの頁を、喩えるなら窓を開くみたいな気分で開いたもんであります――窓の向こうはカルプの町だったりするのでありました。
ちっちゃくていいんですよ、文庫本は。どこにでも気軽に連れて歩ける(芝生だって似合う)。
世に薄さを誇る文庫本数々あれど、そうですね、例えば岩波文庫ならプラトンの『饗宴』、ベルグソンの『哲学的直観』、夏目漱石の『硝子戸の中』あたり……、みんな薄い、確かに薄い、とされてきたけど、でもそれらのどれよりさらに薄い一冊を刊行してみたいと思いました。
インターネット販売ですからね、購入者さまにはお届けの(……ちなみに、お届け先の住所等は僕には伝わりません)送料を負担していただくことになります、コンビニでの支払いを希望される場合はその手数料も負担していただきます(現状160円+税)。トータルで支払う金額、安くはないですね、知名度ゼロの馬の骨が書いたものに送料なんて払えるか、ってなもんかもしれません……。
でも世の中には物好きもいるかもしれない。金持ちだっているだろう。文庫本偏愛者だっているに違いない。だから出してみたい、知る限りで最薄の文庫本を!
ってなわけで割高承知で553円(税込)にて(著者の利益率ジャスト0パーセントで)販売しちゃいます、超薄っぺらな文庫本を。……でもね、中身は薄っぺらじゃないです、字が(本文の2頁目以降)おっそろしくぎっしり詰まっている小説です(よろしかったら立ち読みしてみてください)。この詰まり具合もなかなか類をみないかと思われます。
薄くてぎっしりな文庫本、愛してくださる方は(もしもし)よろしかったら(もじもじ)お買い求めしてやっちゃってください。学生さんからおじいさんおばあさんに至るまで幅広い層をターゲットにした青春回顧録のような内容です。青い空に溶けてく白い風船みたいな話です。
タイトルは『連れてって』。ポケットに突っ込んでどこにでも「連れてって」やってください、非常にかさばりませんから(笑)。
この文庫本にはカバーがなかったりします。カバーってポケットに突っ込むとき邪魔になるし、いかにも商品でございますって装いがあまり好きになれなくて、なくてもいいかなって思うのでありました。代わりに表紙そのものをラミネートしちゃいました(汚れに強いタフな外装です。湿度次第でカールもするでしょうけど、中身ちら見せで寝そべる姿もまたご愛敬でありましょう)。一方で中頁は伝統的な文庫と体裁を揃えました(ただしノンブルは下段の左右)。あのクリーム色がかった用紙や、大きすぎない文字の絶妙なる配置を心底愛しているからであります。
背表紙には文字を入れないことにいたしました。書店さんで目にする薄めの文庫の背の文字が、小さくて細くて、ひどく美しくなく見え残念に思った記憶があるからです。潔く背中はのっぺらぼうなデザインで通したいと思いました(書棚に佇むブランクな背表紙、それが『連れてって』なのであります)。思ったついでに、装丁を十分にシンプルにしたいという構想もかたまりました。余分な装飾はいたしません。コーティングはつやてか(グロス)ではなく、しっとり(マット)にいたしました。
とかまあそんな感じで楽しみながら制作しました。
文庫本マニアといたしましては、このとことんスリムな我が子を――とてつもなく愛しく感じております。いい人にもらわれて末永く大事にしてもらえよ、な、グスン。
著者名
A・N
書籍情報
製本サイズ:A6
ページ数:40
表紙加工:カラー
本文カラー:モノクロ
綴じ方:無線綴じ